【作品解説】 ターナー《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》(1829年)と海中モチーフの表現


この投稿では、国立西洋美術館の「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」展に出品されていた、ターナー作《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》(19世紀前半)についてご紹介します。

【作品解説】

J. M. W. ターナー
《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》
(1829年)と海中モチーフの表現



ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》
1829年、キャンヴァスに油彩、
132.5 × 203 cm、
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
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これはどこの誰が描いた絵ですか?制作されたのはいつ頃ですか?

19世紀イギリスの風景画家、ターナーが1829年に制作した油彩画です。


何が描かれているのでしょうか?絵の主人公はどこの誰ですか?

ギリシャ神話の英雄・知恵者として名高いオデュッセウスたちの冒険を描いた絵です。


物語画的風景画

海神・ポセイドンの息子である巨人(サイクロプス)のポリュフェモスをばかにしながら、船に乗って海に去ってゆく、古代ギリシャ神話の英雄たちの姿を現した作品です。

主人公はギリシャの西にあるイタキ島の王族・オデュッセウスです。彼らを捕虜にし洞窟に閉じ込めた巨人のポリュフェモスの島から逃れて海に出ていくところです。

遠景の崖の上には、石を投げつけようとする巨人の姿が確認できます。
その姿は湧き上がる雲と同化しているように見えます。

この作品は、紀元前8世紀ギリシャのホメロスの叙事詩『オデュッセウス』第4巻に取材し、空想上の景色を描く神話画です。智将オデュッセウスが数々の冒険をこなすストーリーで知られるこの文学作品は、古代の壺絵画家から近代のフランチェスコ・アイエツのような物語画家にいたるまで、ヨーロッパ美術史を通して様々な芸術家に作品の主題を提供しました。

エピメニデス型ホメーロス像 原作:紀元前5世紀 ミュンヘン、古代彫刻美術館
エピメニデス型ホメーロス像
原作:紀元前5世紀
ミュンヘン、古代彫刻美術館

このように《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》は「物語画」的要素も持ち合わせる作品ですが、画面の大部分は海の風景によって占められています。これにより「物語的風景画」ジャンルに属す絵画作品であるといえます。


オデュッセウスたちはどこにいますか?

英雄たちは画面手前で、海に浮かぶ船に乗っています。


海洋モチーフの表現



ギリシャ神話の英雄オデュッセウスとその部下が、画面の中央からやや左の
前景に描かれています。


大きく広がる白い帆の上には、風を受けて旗がはためいています。
高く伸びるマストの上には船員たちがとりついています。


船の側面からは、幾本ものオールが海の水面へと伸びています。
巨人の許から少しでも離れようと、船乗りたちは必死に濃いでいます。


船に寄添うぼんやりした白波の様な影が見えます。
この人物像は、海の精のネレイスたちです。


海のニンフであるネレイスたちは、
額の上に星明かりを灯しながら船を導いています。



ネレイスの前には、海の精たちを先導する飛魚たちが描かれています。ネレイスと飛魚はホメロス『オデュッセイア』には言及がないモチーフです。これらのモチーフは、画面に変化をもたらし見所を増やす効果を生んでいます。

画面奥にはアーチ状の奇岩が見えます。その右では帆船が海の上を行きます。この小さな船舶モチーフは、画面手前の大きく描かれた主人公たちの船の大きさを際立たせる役目を果たしているようです。



右側に描かれた水平線の上には太陽が姿を現しています。この昇る太陽のモチーフは17世紀フランスの画家でイギリスで人気だった、イタリアで活躍したフランスの風景画家、クロード・ロランの風景画を想わせる部分です。

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