【作品解説】室町-桃山-江戸時代の茶杓:作者・形状・伝来

茶杓(ちゃしゃく)

茶の湯で抹茶を掬う匙です。
金属や象の牙、多くは竹製です。
茶杓は茶会に合わせ茶人自らが制作しました。
茶杓を納める筒には作者が自身の名や銘を記しました。 


茶杓鑑賞のポイント

節の位置:全体の印象を決定。
例)無節、茶杓の下部に節。

表情

皮目の模様。
例)斑、「虫食い」穴、変化に富んだ竹の利用。

櫂先

抹茶をすくうために曲がる部分。
作り手の特徴が明示される。

真・行・草

:象牙、または竹の節なし。
:竹製、切止め近くに節あり。
:中心に節あり。



室町-安土桃山時代の茶杓



村田珠光
(1422-1502年)
室町中期の茶人。
奈良御門の村田杢市検校の子といわれる。
幼名は茂吉、別号は香楽庵・珠光庵・南星・独炉庵。
茶の湯・目利に秀いで、侘茶道の祖と称される。

伝 村田珠光
《象牙茶杓》
室町?時代・16-17世紀

象牙
長さ:17.7 cm
広田松繁氏寄贈、東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80825)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

象牙製=「真」体の茶杓。


武野紹鷗(たけのじょうおう)
(1502-55年)
室町時代末の天文年間(1532-55年)に茶の湯を指導。
武野紹鷗
《竹茶杓》
室町時代・16世紀
長:20.3 cm
松平直亮氏寄贈、東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80079)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

すらりと伸びた茶杓。モデルはおそらく象牙茶杓。
竹製、切止め近くに節あり=「行」体
櫂先(かいさき)に露の捻り返し。
切止め近くに一閑斎と覚しき彫銘。
千宗旦による筒、松平不昧の添状の箱を伴う。


武野紹鴎
《竹茶杓》
室町時代・16世紀

長さ:21.0 cm

広田松繁氏寄贈
東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80825)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

竹製、切止め近くに節あり=「行」体



北向道陳(きたむきどうちん)
(1504-62年
武野紹鴎と並ぶ室町後期の堺の茶人。千利休の師。

北向道陳
《茶杓》
安土桃山時代・16世紀

東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80500)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

中心に節あり=「草」体。




蒲生氏郷(がもううじさと)
1556-95年
千利休(1522-91年)高弟の武将茶人。茶杓削りに秀でた。

蒲生氏郷
《茶杓》
安土桃山時代・16世紀、

長さ:17.8 cm

東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80501)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

急角度に折れ曲がる幅広の櫂先=武人の気迫。
中心に節あり=「草」体。
節から下に凹凸、表情豊か。
自作筒に「氏郷」と墨書自署。
昭和の茶人=松永安左エ門収蔵。


安土桃山-江戸時代の茶杓

古田織部
(1544-1615年)
名を重然。利休七哲の一人。
利休没後の天下一の茶匠。
慶長期(1596-1615年)茶の湯に影響大。

古田織部
《茶杓》
安土桃山-江戸時代・16-17世紀
長さ:17.9 cm
広田松繁氏寄贈
東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80828)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

氷割れのある竹を使用。
節が強く屈曲する蟻腰の形。
櫂先はくっきりと曲がる折撓め。


藤村庸軒
(1613-99年)
藤村庸軒は江戸時代前期の茶人で宗旦四天王の一。
はじめ藪内流の茶を学び、ついで小堀遠州、千宗旦に学んだ。
詩文に親しみ漢詩をよくし、その茶道具には漢詩に因むもの多し.
藤村庸軒
《竹茶杓》
長さ:16.7 cm、
広田松繁氏寄贈
東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80830)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き


杉木普斎(すぎきふさい)
(1628-1706年)
江戸時代前期の茶人で宗旦四天王の一。
千利休→宗旦と伝わる茶風を継承。
多くの自作道具は宗旦と似、侘びた趣をもつ。

杉木普斎
《茶杓》
江戸時代・17世紀
長さ:18.2 cm

広田松繁氏寄贈
東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80831)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

節は真ん中に近い位置にあり、圧し潰され扁平な形状。

節下には凹凸、節から上との表情の違いが顕著。
長年使いこんだ結果の色の変化も趣。

櫂先は幅広、大量の抹茶を掬うことが可能。

銘「亀」のいわれは不明。吉祥の意味か。
実業家、茶人として知られる原三渓(富太郎)旧蔵品。



杉木普斎(すぎきふさい)
(1628~1706)
宗旦四天王の一人

杉木普斎
茶杓 銘 水仙
江戸時代・17世紀
全長:19.4 cm
幅:0.48-1.14 cm
重さ:3.25 g
木村定三コレクション
愛知県美術館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/apmoa_mapps-14631)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

墨流し様景色のある苦竹の浸み竹を削る。
竹林中で水分が節から浸み込んで浮かぶ斑紋、
竹林でねじれて生えた竹の歪みを利用か。
形状を水仙に見立て。
節を切止に置く、節切の「真」体の茶杓。
普斎としては珍しいなめらかな削り
裏千家と関わりの深い、茶事評論家の佐々木三味(1893-1969年)旧蔵。


宗旦四天王

利休の孫千宗旦高弟4名。江戸中期に活躍。
それぞれの個性と生き方で千家の茶の普及に尽くした。
  • 藤村庸軒(1613-99年):茶博士。
  • 山田宗徧(1627-1708年):宗旦の名代として三河小笠原家茶頭に就任。
  • 杉木普斎(1628-1706年):仕官せず、伝書で弟子に利休・宗旦の茶を伝承。
  • 久須見疎安(1636-1728年)庸軒の女婿、茶書『茶話指月集』を執筆。

片桐石州
(1605-73年)
江戸時代前期の大名茶人。
利休長男千道安系=桑山宗仙に茶道を学ぶとされる。
大和小泉藩の第2代藩主。

片桐石州
竹茶杓 銘 稲羽州サマ
江戸時代・17世紀
長さ:17 cm
松永安左エ門氏寄贈
東京国立博物館
「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80488)
写真加工:茶杓部分のみを切り抜き

白竹を用い、すらりとした姿に削る。
「稲羽州サマ」と宛名を記した贈り筒が添う。
出雲の大名茶人・松平不昧→松永安左エ門(耳庵)所持。

コメント