【メトロポリタン美術館作品解説】《ペルシャ王羊狩文皿》5世紀後半-6世紀初め、イラン、銀、メトロポリタン美術館

《ペルシャ王羊狩文皿》

5世紀後半-6世紀初め、ササン朝ペルシャ、
銀に水銀鍍金、ニエロ、メトロポリタン美術館

  • この銀でできた皿は、イランの北西部で出土したとされます。
  • 多くの銀を素材とする容器が、イラン高原から興ったササン朝ペルシャ(226-651年)から伝わりました。そしてササン朝王宮の豊かさを周辺諸国に知らしめていました。
  • 同様の皿は日本でも所在が確認されます。例えば平山郁夫シルクロード美術館には《帝王狩猟文皿》(3‐4世紀、銀、径:28.6cm)が所蔵されています。

  • 皿にはハンティングに取り組む王の姿が表されています。
  • 馬を駆けさせ、立派な角を持った雄羊たちを追う王は、画面大きく表されています。
  • 馬上の王を左上に配置し、王を中心に放射状に4匹の羊が表現されています。

"Taq-e Bostan: high-relief of Shapur II and Shapur III" created 
by 
Philippe Chavinlicenced under CC 表示 2.5  画像にトリミング加工を実施。
シャープール2世👆
(在位:
310-379年)

  • 狩りをする王の姿は、4世紀のシャープール2世の治世中に、銀の皿を飾る王を表すための一般的なモチーフになりました。
  • ササン朝君主の勇敢さを表したこのテーマで彩られた贈り物が、近隣諸国の宮廷へ届けられました。



  • ハンティングに取り組みながらも、王の身は、儀式に臨むときに身に着けるような盛装で豪華によそおっています。
  • 具体的には、覆い付きの天球と、城壁パターンの縁を持つ王冠は、着用者が王位にあることを示す、社会的意味の強いモチーフです。


  • 王は弓を手にして馬を疾駆させながら、自分の前方を駆ける2頭の雄羊を追っています。
  • 馬上にて短弓をきりりと引き絞る王の勇姿は、ペルシャの君主が馬を操りつつ矢を放つことができること、つまり「騎射」の能力を有すことを示しています。
  • 「騎射」は西洋の騎士には難しかったようですが、しかし日本の武士は得意としていました。アジアの騎兵に特有の戦闘スキルであるといえます。


  • あごひげを豊かに蓄えた王の横顔が表されています。ひげの毛並みは丸模様を数多く刻み込むことによってあらわされています。
  • 馬上の王の頭の周りには、金色の円光(ニンブス)が見えます。
  • 円光には縁に沿って小さな円形が刻みだされ、造形に変化を加えています。
  • この円光は「王の幸運」を表していると考えられています。


  • 「幸運」に恵まれた王による狩りは順調です。獲物を次々仕留めていきます。
  • このことは、馬のひづめの下に倒れた2頭の雄羊の死体によって示されています。
  • 羊は輪を描く大きな角と蹄の部分が「ニエロ」の技法を用いて表されています。
  • 「ニエロ」は黒色の合金で、鉛に加え、硫黄、銅、銀などを用いて製造し、別の金属で作った部分に嵌め込み(象嵌)ました。


  • レリーフ上に盛り上がった部分には、部分的に水銀鍍金(めっき)が施されています。
  • 水銀鍍金では、水銀と金の合金である金アマルガムを用います。これを金属素材の表面に塗布します。そののち火で熱して水銀を除きます。その結果、金の薄い膜が表面に残ります。これにより鍍金部分は黄金色に輝く効果を得ます。
  • 表されたモチーフは、それぞれ別個に制作された部分を組み合わせています。
  • 別々に作られたパーツを、皿の地に切り込んだくぼみにはめ込んでいます。


アルガリを狩るペーローズ1世の皿
6世紀、銀、径:24.6 cm、エルミタージュ美術館
"Plate of Peroz I hunting argali." created by Hermitage Museum
licenced under 
CC 表示-継承 4.0 画像にトリミング加工を実施。

  • この皿に表された王は特定されていませんが、同じ頃のコインに刻まれた肖像から推測できます。
  • 5世紀後半にイランを治めたペーローズか、カヴァド1世であると考えられています。
  • エルミタージュ美術館の銀の皿に表されたペーローズ1世👆は、メトロポリタン美術館の作品の王と同じく横向きで弓を引き絞り、羊を追っていますが、馬に乗らず自分の両脚で地面に立つ姿で表されています。


コメント