【イギリス風景画】海景水彩画の「静」と「動」の対比:ターナー 《インヴェラレイ城の見えるファイン湾》 1802-05年、山梨県立美術館

ジョセフ=マロード・ウィリアム・ターナー
《インヴェラレイ城の見えるファイン湾》
 1802-05年 水彩・紙 56.0×83.0cm、
山梨県立美術館

  • 19世紀初めの頃のイギリスを代表する風景画家、ターナーが描いた自然の景色をモチーフとした海景画です。
  • 本作品は、1801年の夏にスコットランドを訪れた際に制作したスケッチをもとにして、インヴェラレイ城を所有するアーガイル公爵の注文により制作したものになります。
  • ファイン湾はグラスゴーの北西約60キロのところにあり、南から北へ深く入り込んでいます。
  • この入江に突き出した岬の上にインヴェラレイ城が見えるという景色を、ターナーは多くの鉛筆素描や水彩に残しました。

「静」の表現:岩と鳥の舞う水辺

  • 本作品ではいささか荒れて波の高い水面には舟が浮かび、白い鳥がそのそばを飛んでいます。
  • 描写は緻密で構成は変化に富んでいます。まず細かなタッチで前景の岩場の固さを表現しています。
  • そして宙を舞う白い鳥を小さく描く水辺は穏やかです。

「動」の表現:船を揺らす荒れた海

  • これに対し船が翻弄されるのは白波立つ荒れた海上となっています。
  • 海辺のモチーフが見せる「静」と「動」の対比がわかりやすく表現されています。

沸き起こる雲の「動」と山塊の「静」

  • 海の上には、沸き起こり流動する雲が、斜めに配置されて描かれています。

  • 雲の下には、一転して不動の山塊がどっしり構えています。
  • ここでも雲の「動」と山の「静」が対比的に表されています。
  • 数多くのモチーフを構図内に納めることができる風景画内において、モチーフの性格の違いに対する十分な理解を基礎に、対比的に各要素が配置されることで、それぞれの要素の性質が際立って見えるようになっています。

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