動画で解説!「ロートレック展―時をつかむ線」

2024-25年注目の「ロートレック展」

こちらの動画は、東京のSOMPO美術館➡札幌芸術の森美術館➡松本市美術館で開催される、特別展「ロートレック展―時をつかむ線」で見ることができる出品作について、その見所などを解説しています👇

会期(この特別展は巡回展になっています👇)
  1. SOMPO美術館:2024年6月22日(土)〜9月23日(月)
  2. 札幌芸術の森美術館:2024年10月12日(土)〜2025年1月5日(日)
  3. 松本市美術館:2025年1月18日(土)〜4月6日(日)

フィロス・コレクション

この特別展では、ロートレックの紙に素描や印刷して作られた作品を集めた、世界的なコレクションとして知られる「フィロス・コレクション」が、日本で初めて展示されています。アメリカのギリシャ人、フィロス夫妻が収集した、日本で初公開となる作品の数々を動画でご紹介する今回の動画、どうぞご覧ください。

第1章「素描」

紙に描かれた作品が特集されている本展では、ロートレックの素描作品を見ることができます。本展、第1章はその「素描」に捧げられています。簡単に描かれたデッサンでも、的確に線を走らせることでモチーフの本質的な形態を捉えることができたロートレック。その素描技術の冴えを、今回の出品作の中にはご覧いただけます。


今回の特別展の出品作《騎手》👆は、縦が31.3㎝、横が19.8㎝の紙に、ペンとインクで、1879年から81年に描かれた作品です。縦長の長方形の紙の中央に、馬とその上にまたがる男性の後ろ姿が、画面の中にどちらかといえば小さめに表されています。本作ではモチーフの細部の描写は省略される傾向が示されています。たとえば、馬のひづめの辺りも、余白で表現されています。その一方で、馬の胴体と尻尾、人物の帽子、首、衣装の肩のあたりなどには、線が集中して、形態を強調し、あるいは、ボリュームを表現する機能を果たしています。


続いて、画家の父をモデルとするこの肖像画👆は、縦が10.5㎝、横が12㎝の紙に鉛筆で描かれた、1885年頃の作品です。画面に大きく表されている、洋ナシ🍐型の頭を示す人物は、画家の父親の伯爵です。この、乗馬🏇や狩猟🐇を愛した貴族の、肩から上の部分が画面に収められています。顔はこちらに正面を向けており、造形の左右対称性が強調されています。向かって左の側に集められた髪の毛や、線を重ねて、カタカナの「ハ」の字の形をとるように、目じりが下がった両目は、簡潔な鉛筆の線で、しかしながら、しっかりと表されています。口髭と、大きく膨らむ豊かな顎鬚は、小さく連続するアーチを描く線で表現されています。モデルの顔の印象深い特徴を強調しながら、シンプルな線描によって、しかし、モチーフの造形を的確に表す本作は、ロートレックが有した、素描家、そして、肖像画家としての高い適性をよく示しています。

第2章「ロートレックの世界」

第2章「ロートレックの世界」「カフェ・コンセール、ダンスホール、キャバレ」では、当時、ロートレックの周囲に存在した、遊興の場で活躍していた人々を描いた、版画と、素描を鑑賞することができます。


そのうち1893年の作《イヴェット・ギルベール》👆は、縦が23㎝で横が12.6㎝のサイズの紙に、 水彩絵具を用いて描かれた作品です。 本作は、人気のクラブ「エルドラド」や「パリの庭」、キャバレー「ムーラン・ルージュ」で活躍した、19世紀末のパリを代表する女性歌手の腰のあたりから上を画面にいっぱいに捉えて描いています。とりわけ、この素描では、外見の特徴が、誇張を交えつつ描写されています。 細身の体は、 腰の括れをわかりやすく描写しながら表現されています。 青い衣装に加えて、この女性が身に着けている肘の上まで届く、黒色を呈す長手袋も、目立つように、画面の上下に表されています。これに加えて、金髪の頭部には、 突き出た鼻と、顎の先がしっかりと描写されています。さらに、頬骨の秀でた様子も、目の下、鼻の左の辺りに、弧を描く短い線を引くことで、簡単に、しかし、目立つように描かれています。この様な肉体の造形を印象深く描き表す描写が鑑賞者のめを引く本作は、モデルの不興を買うこともあったともいわれる、 身体的特徴をあまりに顕著に描いてわかりやすく描いた、 トゥールーズ=ロートレックの肖像画の独特のスタイルを良く示す作品となっています。

第3章「出版―書籍のための挿絵、雑誌、歌曲集」


第3章「出版―書籍のための挿絵、雑誌、歌曲集」では、ロートレックが関わった、雑誌や、書籍といった、出版物に関係する作品が展示されています。


雑誌『レスタンプ・オリジナル』の表紙👆は、1893年に制作された、縦が58㎝、横が69㎝の、リトグラフの版画作品です。本作は、ロートレックや、ナビ派の芸術家の作品が掲載された、版画集の表紙を飾りました。画面の左上の奥に表されたプレス機の向こうで、機械のハンドルに手を掛ける男性は、ロートレックが懇意にしていた印刷所の、ベテランの刷師です。それから、版画の刷り上がりを見ている女性は、モンマルトルの花形ダンサーだった、ジャンヌ・アヴリルです。画面の手前と奥に配置された人物たちは、対角線の上に置かれて、絵の中に奥行きを感じさせます。そして、ふたりの間の目立つ位置に、版画集の情報を伝える、テキストが記されています。

第4章「ポスター」

第4章「ポスター」では、 トゥールーズ・ロートレックの芸術を 代表する作品のジャンル、 ポスターが特集されています。 


 《ディヴァン ・ジャポネ》👆は、1893年に制作された、縦が80.8㎝、横が60.8㎝の、リトグラフの技法による版画作品です。これは、 日本を思わせる内装が売り物だった、 キャバレのためのポスターです。 右奥の金色の髪に髭の男性は、 象徴主義の詩人・デュジャルダンです。 中央の、黄色の椅子に腰かける、 黒い帽子と衣装、 橙色で表す髪を生やした女性は、 ロートレックがしばしば描いた、ダンサーのジャンヌ・アヴリルです。 本作の人物表現からは、 このキャバレが、 有名人が集う、人気の店であることを印象付けて お客を集めようという戦略的な意図が感じられます。 黒い線と、灰色だけで表された楽団が、 その身を置くエリアの、 向こうのステージに立つ人物は、黒い長手袋から、 今回の出品作にも描かれた、歌手で女優の、イヴェット・ギルベールであるとわかります。鮮やかな、しかし、平坦な印象の色遣いと、シンプルな構成でありながら力強さを感じさせる構図には、浮世絵の影響が感じられると指摘される作品です。

第5章 私的生活と晩年

第5章、私的生活と晩年では、仲の良い友達に囲まれたロートレックの、生活の様子を偲ばせる作品を見ることができます。


《ポニーのフィリベール》👆は、1898年に制作された、縦が56㎝、横が36㎝の、リトグラフの版画作品です。本作は、ロートレックの友人で、馬車を貸して生業としていた人物が所有する馬を、モチーフに選んで描かれています。胴体や、脚は、簡単に表すだけですが、太い首から、頭部は、詳しく描かれています。さらに、尖った耳や、横顔のシルエットも、しっかりと表されています。そして、複数の線を平行に走らせる、ハッチングを利用して、陰影を表現し、首や、顔の、表面の起伏する様子が、よく描写されています。

ロートレックは、素描と版画の技法によって、人物や、動物を描く、画家としての才能を発揮しながら、店や製品の宣伝のような商業的な性格の作品から、自分や友達に関連するプライベートな作品まで、様々な種類の制作に携わりました。今回の特別展は、そんなロートレックの多才ぶりと、多様な制作活動を知ることができる、格好の機会となっており、2024年、必見の展覧会となっています。

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