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動画で解説!菱川師宣《見返り美人図》(17世紀、東京国立博物館)
菱川師宣《見返り美人図》
- 数ある江戸時代の肉筆浮世絵の中でも、最も有名な作品といえる《見返り美人図》の解説動画をYoutubeで公開中です⇩
- 動画の中では、髪型から着物の文様まで、江戸時代の元禄期のオシャレの最先端を後ろ姿で効果的に見せる、師宣美人の表現について、細部を拡大しながら詳しくご紹介しています。
《見返り美人図》とは?
- 《見返り美人図》は、赤い色が鮮やかに映る振袖の着物を身に着けた女性が、裾を引きずりながら歩みを進めるその途中で、ふと後ろのほうを振り返る一瞬の動きを捉えて描いた作品です。
- 女性は、縦長の画面の下の方に、たったひとりで、膝を曲げながら立つ姿を現されています⇩
- 江戸時代を代表する浮世絵師・菱川師宣の代表作である《見返り美人図》は、江戸時代の中期にあたる17世紀の末頃に制作された肉筆の作品です。
- 掛軸の形式で鑑賞されるこの絵は、現在は、東京国立博物館に所蔵されています。
作者・菱川師宣とファッション表現
- 作者の菱川師宣は、17世紀の初めに生まれ、1694年まで生きた、初期の浮世絵師です。師宣は、縫箔師、つまり刺繍や金属箔により衣装を飾る職人の父のもとに生まれ、師宣自身も江戸に出てからは着物のデザインや模様を集めた「雛形本」を手掛けるなどしており、着物やその文様の絵画表現はお手の物であったようです。
- 《見返り美人図》は、そんな師宣の得意を活して描写された、流行のファッション要素を人物像の上に随所に確認することができます。
- 赤い絹織物の上に表された黄・白・青の花模様は刺繍、特に黄色は金箔を使用した装飾部分であるとも指摘されます。
- このような刺繍や箔による衣装装飾を、師宣の父は縫箔師としてのキャリアの中で手掛けていたものと想像されます。
画材と技法:絹本著色
- この絵は、まだ多色刷り木版画の「錦絵」が制作されるようになる前の時代の作品になります。ではなぜカラフルな色遣いで仕上げられているのでしょうか。それは、本作は、日本画で今でも使われている鉱物性顔料である、岩絵具と筆を画材に用いて着色することにより画かれているためです。
- 支持体としては、紙ではなく、絹地を用いています。これらの画材が使用された結果、本作は、大量生産され、安く手に入った浮世絵版画とは異なり、高値で取引される高級品となっています。そのため、江戸時代に本作を入手し、鑑賞した人物は、きっと経済的に余裕がある富裕層の人間であったと考えられます。
作品のサイズ:縦長の画面
- その絹織物を支持体とする画面のサイズを確認すると、縦の長さが63.0㎝となっています。それから、横の幅がそのちょうど半分くらいの31.2㎝です。
- このように、本図は、水平の方向よりも垂直方向により長く伸びる、縦に長い形状の画面に画かれています。
画面上部の余白:想定される目的と現在の機能
- 本図では、画面の下には女性の立ち姿が表されています。これに対して、女性像の頭の上に確認される、画面の上の箇所には、何もモチーフが表されていません。また、彩色も施されていません。
- 空白が広がるこの部分については、絵画の余白にテキストを書いて添える、画賛が入る予定であった可能性が指摘されています。
- しかし、現状では、この画面の上部にはいかなる文字もその存在を確認することができません。そのため、テキストが入れられていないこの空白の箇所は、いまでは、この空白部分のすぐ下に画かれている、女性像の存在を相対的に引き立てる役割を果たす部分となっています。
落款:「房陽菱川友竹筆」
- 人物の下半身のすぐ隣の位置の、画面の右下の位置には、黒い墨を用いて書き込まれた文字が記されています。ここには七つの文字が垂直方向に一列に並んでいます。具体的には、「房陽菱川友竹筆」と記されています。
- この縦書きの文字列は、落款、つまり、書画を制作した際に入れる書き付けになります。まず「菱川」はご存じ本作の作者である菱川師宣の姓になります。それから「房陽」の二文字は、出身地の安房国、現在の千葉県南部の土地を指します。
- 最後に「友竹」は菱川師宣が髪を剃って頭を丸めた、その晩年の時期に使用していた号になります。これにより本作は菱川師宣の画業でも最終盤の時期に制作されたと想定され、1793年頃、つまり師宣が世を去る前年頃の作と考える意見も提出されています。
顔の特徴:師宣美人の典型的な面立ち
- 「見返り美人」は右肩越しに振り返りつつ、その右の側面を鑑賞者に見せる、完全な横顔を示しています。その顔の形は、面長で下膨れであると形容されています。さらに、顔の各パーツについて観察すると、上には細い眉毛が緩やかにアーチを描いています。
- 眉の下では、細い目が開いて、黒い瞳が画面の向かって右の方へと視線を送っています。目の下では、鼻が突き出て横顔のラインに変化を加えていますが、鼻の高さはどちらかといえば控えめとなっています。その鼻の下の口を見ると、上下の唇が結ばれて、その赤い色が良く映えて、顔の下部を彩る色のアクセントとなっています。
- しかしこのような横顔は、師宣の作中ではしばしば確認される典型的な造形を示すことが指摘されています。そのため、鑑賞者の視線は、この顔の周りを飾る髪の毛が示すヘアスタイルや髪飾り、さらに首から下の部分を彩る赤い着物や、緑の帯へと自然に導かれるようです。
美人のヘアスタイルと髪飾り
- 頭の前の方の髪は「吹前髪(ふきまえがみ)」にして立てています。頭の後ろでは、輪っかを作る「玉結び」にしています。
- 黒髪の上のほうには小さな櫛(くし)を差しています。これは、玳瑁の甲羅を素材として利用した、鼈甲の高級な製品である可能性が指摘されています。
- 下のほうの結び目には、一本足の簪(かんざし)を差しています。こちらの簪は、丸く作った頭を備えています。この頭の箇所には、透かし彫りが施され、手の込んだ工芸製品となっています。
着物を飾る文様:小花の地紋+桜花・菊花文
- 緋色の着物には、小さな花の地模様が浮かんでいます。その地紋に重なるように、小袖の全体には、上・中・下の三段に、丸く表したより大きなサイズの花模様が確認されます。
- 大きな花模様は、桜と菊を表した文様が隣り合うように飾られています。まず、桜は大きな黄色い模様の周りを、小さな城と浅葱色の花が取り巻いています。次に菊は、黄色の大きめの花が、白い小さな鹿の子模様が集まる周りを取り囲んでいます。
- 桜花🌸と菊花は刺繍の技法を使用して表されていると推定されています。一方で、黄色で彩られた櫻花と菊花は、金糸を用いた刺繍か、金の摺箔で飾っている可能性が指摘されています。
帯:七宝繋ぎに小花+「吉弥結び」
- 緑色の帯には、七宝のつなぎ模様と、その間に小さな黄色い桜の花の模様が付けられています。
- 帯は流行の「吉弥結び」にして帯の結び手をだらりと下げています。これは、人気の役者だった初代・上村吉弥の、つまり、17世紀の後半に京都で活躍した女形の役者の着こなしにちなんだ、流行の帯の結び方になります。
裾:地に引きずる着こなしの意味
- 小袖は、菊花と桜花が飾る裾の箇所を地面に引きずるように着付けられています。これは、肉体労働とは無縁な若い女性の着こなしです。
- 地面に裾が付いているために、着物に皺が寄る様子も黒い線を使ってよく表されています。さらに、襞の向こう側に回り込んだために、途切れる地文の花模様も表現されています。
振袖と着用者の地位・身分の関係
- 加えて袖は、こちらも菊花と桜花を飾りつつ、「振袖」となっています。振袖は、作者の菱川師宣の活躍期には、嫁入り前の女性が身に着ける着物の特徴でした。
- これら裾と袖の特徴から、本作のモデルは、恵まれた裕福な商家の娘であるとも、まだ自分だけの部屋を持たない吉原の若い遊女の「新造」であるとも想定されています。
現代の図像利用:切手を飾る「見返り美人」
- 本作は、切手に印刷したことでさらに有名になりました。「切手趣味週間」シリーズ(1948年のものは額面5円。1991年と1996年の切手趣味週間にも復刻版あり)や郵便事業120周年記念切手(2010年、額面:62円)として切手の図にも採用されています。
- 古い時期に発行された「見返り美人」切手は、現在では市場において高値で取引されています。
Youtube動画で解説中!
- 動画では、初期浮世絵の代表作である《見返り美人図》の表現の特徴について、具体的に全体図を参照しながら、また、全体図に並べて拡大図も示しつつ、絵の各部分をそれぞれ詳しく解説しています。
- ご覧いただけましたら幸いです⇩
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