【作品解説】雪村《琴高・群仙図》16世紀
サントリー美術館「ミネアポリス美術館」展に出品されている雪村《花鳥図屏風》の関連作品、京都国立博物館が所蔵する同タイトル作品のご紹介です。仙人の伝記集『列仙伝』にも登場する、中国・周代の趙(ちょう)の人、琴の名手としても知られる琴高仙人(きんこうせんにん)が、水中から赤い鯉(こい)に乗って波間に登場し、待たせていた弟子たちの前に姿を現した瞬間を描いた、雪村作の水墨画です。
雪村《琴高・群仙図》重要文化財、三幅、紙本墨画、 中央:122.0 x 55.0 cm、左右・各122.0 x 56.5 cm、 京都国立博物館 |
琴高仙人が鯉の上にまたがって水の上に躍り上がっています。手には鯉のひげを手綱のようにとっています。仙人は鯉を、まるで馬のように乗りこなしています。騎乗された鯉が水面にかき立てる波は、雪村が描く特徴的なかたち、「指を長く伸ばしたような」形態を示す波です。鯉は本物そっくりに描かれています。この水生生物モチーフの写実的な表現には、水中の魚や甲殻類、貝類を、水草を配す画面に自然主義的に写し表す「藻魚図」を学んだ結果が反映されているとされます。
左右幅:弟子たちと鑑賞者の位置
左右の幅には7人の弟子が居並ぶ様子が表されています。三幅を並べて見ると、師匠の仙人を頂点とし、その弟子たちが底辺を作る三角形が形成され、構図に安定感がもたらされています。わたしたち絵を見る鑑賞者は、この弟子たちと一緒に下に並んで、画面上方向へと躍り上がる鯉の上の仙人の姿を見上げます。
琴高仙人と弟子たちを表現しながら、同じく室町時代に活躍した水墨画を得意とした画僧の拙宗(せっそう)や、中国・明の時代前半に活躍した画家・李在(りざい)も同じテーマで作品を描いています。ふたりの絵と比べて明らかになる特徴として、雪村の絵では登場する弟子たちが、あるものはいかめしい面持ちを示し、またあるものは柔らかな表情を浮かべ、変化に富む顔つきを示しています。
「竹林の七賢」の見立て
それぞれの幅には笹竹が描かれています。また左幅には酒を入れる瓢箪も吊るされています。琴の名手だった琴高を、酒のいれものと共に描くこの絵は、酒と音楽を好んだ中国の三国時代、3世紀の7人の知識人「竹林の七賢」の見立てとしても鑑賞可能であるとされています。「竹林の七賢」をテーマに、雪村は屏風を描いています(雪村《竹林七賢図屏風》重要文化財、紙本墨画、六曲一双、各:159.0 x 325.0 cm、東京・畠山記念館)。こちらの屏風ではさらに個性的な風貌を示す人物たちが思い思いのポーズをとりながら画面をにぎわせています。
【解説】
雪村が屏風に描いた竹林の七賢を描いた屏風です。酒を飲み、琴を弾き、清談を行なった阮籍(げんせき)、嵆康(けいこう)、山濤(さんとう)、劉伶(りゅうれい)、阮咸(げんかん)、向秀(しょうしゅう)、王戎(おうじゅう)の七人が描かれています。人物像は向かって左に三名と童子一名、右に四名とこれまたと童子一名を加えたグループに分かれています。そして風景に山水モチーフを従えながら、童子たちと共に多様な身振り手振りで画面に動きを与えています。関連記事
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参考文献
小川知二『もっと知りたい雪村』東京美術、2007年。
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