【作品解説】雪村《花鳥図屏風》16世紀
サントリー美術館の「ミネアポリス美術館」展より、室町時代後期・戦国時代の画僧・雪村の作品のご紹介です。今回は周文 ・雪舟らの影響を受け水墨画を得意としたこの画家の、六曲屏風一双からなる大きな画面の作品を取り上げます。この作品で雪村は、13世紀中国の画僧・牧谿のスタイルを思わせるような「没骨」のテクニックにより、輪郭線を「筆」で強調せず、「墨」による面を表す表現技法を用いています。
雪村《花鳥図屏風》六曲一双、紙本墨画、 各:175.9 x 366.0 cm、ミネアポリス美術館 |
右隻:梅樹に鷺(さぎ)と月
雪村《花鳥図屏風:右隻》16世紀 |
画面左上隅に、空に月が浮かんでいる様子が描かれていることから、夜のシーンであるとわかります。画面右側には、梅の木や岩が表現されています。これらの山水モチーフの上に、白い鷺が群れ集まっています。樹や岩を描く隅の黒の上に、鷺(さぎ)たちの体の白色が際立っています。日が暮れ、鷺たちは寝入ろうとしているところのようです。その夜の静けさを破るように、画面左では、岩や木と同様に墨の黒が強調された表現で描かれた鯉(こい)が二匹、「指を長く伸ばしたような」と形容される、雪村が描く独特の姿を見せる波を立てながら水をかき分けつつ、右から左へと水の上に半身を表しながら進んでいきます。上下に描かれる二匹のうち、上の鯉(こい)は、これも雪村が描いた《琴高・群仙図(きんこう・ぐんせんず)》(京都国立博物館)に既に登場していることが指摘されています。
左隻:柳に鷺(さぎ)と燕(つばめ)
雪村《花鳥図屏風:左隻》16世紀 |
右隻と左隻の比較・
描かれたモチーフの持つ意味
右隻の夜の暗さと静けさ、左隻の明るさと動きの表現がコントラストをなしています。右隻に描かれた大きなサイズの鯉は、男の子の成長や出世を象徴する寓意的モチーフです。一方で右隻にも左隻にも描かれる鷺(さぎ)は泥の中にいても高潔なままでいられる立派な君子を思わせる象徴モチーフです。このようなモチーフが描かれていることから、本屏風は、戦国時代の陸奥国の大名で、雪村が古い絵画作品を鑑賞する方法を教えた、蘆名盛氏(あしなもりうじ)に献上された可能性が高いと指摘されています。
関連記事①
同じく雪村の作品に関する投稿になります。
こちらもどうぞあわせてごらんください。
【作品解説】雪村《琴高・群仙図》重要文化財、三幅、紙本墨画、中央:122.0 x 55.0 cm、左右・各122.0 x 56.5 cm、京都国立博物館
関東の水墨画家・雪村が描く、琴高仙人が、鯉に乗って波間に姿を現した瞬間が描かれています。静と動の対比が鮮やかなモチーフの配置・人物の「見立て」について解説します。
関連記事②
その他のミネアポリス美術館展
出品作の関連記事です。
【ミネアポリス美術館展出品作品解説】狩野山雪《群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵)》四面、江戸時代、正保3年(1646年)、ミネアポリス美術館
初代「京狩野」の山楽の弟子狩野山雪が、仙人たちの集いを描いた襖絵《群仙図》個性あふれる登場人物の姿かたちと正体を詳しく解説します。
【ミネアポリス美術館展出品作品解説】狩野探幽《瀟湘八景図屛風》八曲一隻、江戸時代、寛文3年(1663年)、ミネアポリス美術館
狩野永徳の孫・探幽が中国の名勝「瀟湘八景」を描いた大作。風景モチーフの内容から、屏風のフォーマットを活かした構図の工夫まで解説します。
【ミネアポリス美術館展出品作品解説】東洲斎写楽《市川鰕蔵の竹村定之進》江戸時代、寛政6年(1794年)、木版多色刷、大判錦絵、ミネアポリス美術館
写楽による役者大首絵シリーズ「江戸三座役者似顔絵」から《市川鰕蔵の竹村定之進》をご紹介します。役柄の内容から、独特の人物表現まで解説します。
【ミネアポリス美術館展出品作品解説】伝土佐光吉《源氏物語図「胡蝶」》江戸時代、17世紀
この作品は紫式部『源氏物語』の「胡蝶」の帖を絵画化したものです。画面には金雲が装飾的に用いられ、鮮やかな発色の顔料を用いて、光源氏の邸宅・六条院の栄華を極めた春の宴の様子を描き出しています。
参考文献
小川知二『もっと知りたい雪村』東京美術、2007年。
コメント
コメントを投稿