この投稿では、「ミネアポリス美術館」展(@サントリー美術館)出品作、狩野山雪《群仙図襖》(17世紀)についてご紹介します。
狩野山雪《群仙図襖》1646年
狩野山雪《群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵)》
四面、江戸時代、正保3年(1646年)ミネアポリス美術館
はじめに
この作品は2013年に京都国立博物館で開催されていた「狩野山楽・山雪」展で日本への「初里帰り」出品されていましたので、こちらでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
狩野山雪(かのうさんせつ)は、江戸時代初期の狩野派の絵師で、京都で活躍した京狩野に分類されます。この襖絵には、九人からなる仙人のグループが描かれています。中国の仙人は、永遠に生きる歴史的かつ伝説的な人物であると信じられ、聖人として崇拝されました。
1. 中国・道教の不老不死の人物たち
この画面には、金地の背景に松の木の枝葉のような植物や岩、青い水が描かれています。これらの自然モチーフは、画面中央を枠取るように配置されています。その自然物モチーフがかたちづくるフレームの中に、9人の仙人たちが右から左へと水平方向に居並んでいます。
① 蝦蟇仙人(劉海蟾)
向かって一番右の襖に描かれるのは、糸を通した銭をぶらさげて蝦蟇と戯れる、蝦蟇仙人です。この人物は『三国志』にも登場する左慈に仙術を教わったとされる呉の葛玄、もしくはこの屏風にも登場する呂洞賓に仙術を教わった五代十国時代後梁の劉海蟾をモデルにしているとされる仙人です。
銭を糸でつるし、蛙と戯れる蝦蟇仙人の手と足。 蛙は不機嫌なのか、目が怒っているように見えます。 |
放射状に開く葉をつけた、まっすぐ伸びる木は棕櫚(しゅろ)でしょうか。 中国の仙人の異国性を強調するモチーフとして機能するこの亜熱帯の植物は、 平安時代には日本にも持ち込まれていたようですが、京では珍しかったでしょう。 |
②韓湘子と李鉄拐
蝦蟇仙人が描かれた襖の左隣の襖には、二人の人物が描かれています。腰を下ろし、右を向いて壺に入れられた牡丹の手入れをしているのが、唐代の仙人・韓湘子です。青地に金線で波模様を描いた衣を身に着け、杖に寄り掛かりながら空をにらんでいるのは李鉄拐です。
③鐘離権と呂洞賓
次の襖にも複数の仙人達の姿が見えます。白い衣を身に着け、黒塗りの横笛を手にする仙人が曹国舅です。肩に編んだ木葉を載せた髭の長く頭の禿げた仙人が「漢の人」鐘離権、傍らに童子を従え、団扇を手にする青い頭巾の人物は仏教の経典『維摩経』で有名な維摩居士、剣を背負い香を焚くのは呂洞賓です。この道士は雷雨を操る「雷法」を用いるほかに、剣を飛ばし魔を払う「天遁剣法」を使うので、この法術を操ることを示すために剣のモチーフが描かれているようです。
④:藍采和と身元不明の仙人
向かって左端の襖には、二人の仙人が描かれています。藍采和は拍子木を捧げ持っています。これはこの仙人が拍子木を打ち鳴らしながら「踏歌」という歌を唱し、酔って踊ったことを表しています。また言い伝えによれば破れた衣をまとい、黒い木の皮を腰帯代わりに巻いて、片足には穴の空いた靴を履き、もう片足は素足であったとされます。しかしながらこの屏風では、立派な衣装を身にまとい、靴も両足に着けています。この仙人の背後には、蓮花の付いた竹を持ち、腰には瓢箪をつけた仙人が立っています。青い襟もとの薄黄色の衣装を身に着けたこの仙人は身元不明のようです。
2. 作品の制作と来歴
この襖絵のセットは、京都の妙心寺の塔頭・天祥院の客殿を飾るために制作された、大画面作品連作の一部を形成していました。この寺院の装飾プロジェクトのために 1640年代に、狩野山雪とその工房のスタッフたちは、数多くの絵を制作し納入しました。しかし1886年に発生した火災のために、塔頭は土蔵と門を除いて焼失し、狩野山雪たちが描いた絵のほとんどは失われてしまいました。結果、僅かに残ったのが、4枚の襖の表と裏に残された、狩野山雪が描いた合計8点の襖絵でした。これが今回取り上げたミネアポリス美術館所蔵の狩野山雪《群仙図襖》4面、そして、この襖絵シリーズの反対側を飾っていた、現在ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵の狩野山雪《老梅図襖》4面です。
狩野山雪《老梅図襖》1647年、四面 紙本金地着色、166.7×116cm メトロポリタン美術館 |
2013年に京都国立博物館で開催されていた「狩野山楽・山雪」展は、いずれもアメリカにわたりながら離れ離れになっていたこの《群仙図襖》と《老梅図襖》を再会させた点で、海外所蔵日本美術作品展示史上重要な特別展となりました。
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