【作品解説】ドメニコ・ギルランダイオ 《聖母子》にみるルネサンス期イタリアの風景と人体の表現



ドメニコ・ギルランダイオ
《聖母子》

1480-90年頃、
板にテンペラ、88.9 x 57.8 cm、
ロンドン・ナショナル・ギャラリー

明るい空の下広がる風景の前で、
見つめ合う母と子は幼子イエスと聖母マリア。

ルネサンス期のイタリアで活躍した画家・
ドメニコ・ギルランダイオ描く《聖母子》。
今回はこの宗教画の、人体と風景の表現について解説します。


聖人の証たる透き通る金色の円盤を頭に戴く聖母は
金刺繍の縁がついた青い生地を頭にかぶり、
その下には白く薄いヴェールが襞を作り
金色の巻毛が、光を反射し白色に輝く。
顔の微妙な凹凸を明暗法で表した頭部は
広い額、伏し目がちの穏やかな面持ちを示し、
母の優し気な視線は、左下方向へと注がれる。


聖母の視線の先には幼子イエス。
母と同じ金髪の巻き毛を生やした頭部には
流血の磔刑を予示するがごとき末広がりの赤十字。
大きな頭、丸みを帯びた短い手足、ふくよかな胴は
小さな子供に特有の身体的特徴を的確に再現。
人体の表現に解剖学的な正確さを期す、
高度に自然主義的な描法。


その幼子イエスの頭上には遠景に連なる山々。
一番手前の山は木々が生え、植物に覆われた山が緑色、
その奥には山麓に建築を伴う、霞む岩山が青く描かれ、
さらにその向こうに見える同じく岩山は薄い青色を呈す。
大気の干渉により遠くのモチーフの色彩を変化させ、
🟢緑→🔵濃い青→薄い青と彩り奥行きを表現する、
いわゆる「空気遠近法」のわかりやすい実践例。
画家が当時最新の風景表現に通じていた事実を示す
この宗教画作品の画面内でも重要な部分。


右側の遠景では前景にモチーフが豊富。
細い幹の上部分に緑の葉生い茂る二本の木
その奥に石橋に接続された青い屋根の城館
さらに向うの山の上にも小さく城の姿が見える。
それより遠くには蛇行する川のほとりの景色、
そして空気遠近法で描かれた青くけぶる山。


左右の風景に挟まれた聖母の衣装を見ると
縦ギャザーを寄せた白い下着がのぞいている
Vネックの赤い衣装は、襟ぐりに金糸で刺繍。


赤い衣装の上には頭にかぶった金刺繍付きヴェール、
そして緑の縁にやはり金刺繍を施した青い上着を羽織る。
腰には金色の細紐の帯を結び、
帯の端には金の小さな房が下がる。


聖母子と私たち鑑賞者の間には低い仕切りがあり、
その上面には、幼子イエスが小さな両足で踏む
金色の房が付いた黄色い生地のクッション。
仕切りの上に広げられた敷物は、
赤地に数種の縦縞模様が走る。

🎕 🎕 🎕

小道具の細部まで装飾を豊かに施し、
絵を見る鑑賞者を飽きさせない。

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