【1分でメトロポリタン展⑨】ヘラルト・ダーフィット《エジプトへの逃避途上の休息》(1512-15年頃 メトロポリタン美術館)

ヘラルト・ダーフィット
《エジプトへの逃避途上の休息》

16世紀・北方ルネサンスの宗教画

  • 東京の国立新美術館で開催のメトロポリタン美術館展の出品作の解説動画です。
  • 第9回はヘラルト・ダーフィットが1512-15年頃に描いた作品。
  • 《エジプトへの逃避途上の休息》(1512-15年頃 メトロポリタン美術館)を動画でご紹介します。


伏し目がちの、面長の聖母のお顔。
優しいまなざしを、懐に抱く、幼子イエスに注いでいます。
頭髪は中心線で左右に分け、暗い色のヘアバンドで押さえています。

口に乳を含む、幼子の姿のキリスト。
頭が大きな、子供らしい身体的特徴を示しています。
まなざしをこちらに向け、鑑賞者を見つめているよう。

身に着けているのは薄物の衣装。
着物の下の肌が透ける、薄い着衣の質感表現は的確。
北方派の素材を判別させる再現的描写の方法が明確に見て取れます。

イエスの丸っこい足の、短い指。
幼児らしい体の表現であるといえます。

人物モチーフの上には、青い大空が広がっています。
空には、翼を広げて飛翔する、鳥のシルエットが小さく浮かんでいます。

明るい空を背後に従えながら、
木の葉が細かく描写されています。
小さな葉の一枚までが区別されます。

遠景には青くけぶる山々。
手前に茶色の前景、緑色の中景、青い遠景。
このような色彩の変化で画面内に距離を表現する、
色彩による遠近法の手法は、北方派画家が得意とした手法。

中景には城と⛪教会の建物。
それぞれ、世俗と宗教の権力を象徴するモチーフです。
イエスとマリアが生きた時代には、教会建築はまだなかったはずですが、
宗教画には、聖母子と一緒に、しばしば取り合わせられる人工のモチーフです。

聖母の足元の、緩やかに襞を作る衣装。
厚く織られた布地の質感が感じられるようです。
また、鑑賞者の目を引く青と赤の色彩の鮮やかさが、
彩度が引きほかの色との比較で、色彩のアクセントとして機能しています。

地面では植物の表現も精緻です。
草の葉の形状が、種類の特定を可能にするまでに、
明確に描写されています。

地面に転がる枝のついたリンゴ🍎は、
アダムとイヴが食べた禁じられた木の実を表し、
長じて後、キリストがあがなう、人類の現在の象徴です。

前景では休息する聖母子が描かれる一方で、
画面の奥のほう、日の光が届かない、暗い中景の森の中には、
ロバの背中に乗った聖母子と、義父のヨセフが歩く姿が見えます。
👆
これは休憩前の、旅の途中の一家の様子です。
このように、異なる時間に属するモチーフを同じ画面上に並べて描く手法を、
「異時同図法」と称し、中世・ルネサンス期にしばしば用いられました。


このように本作は、時間と空間の表現が特徴的な、
自然と人工物のある風景を伴う、聖母子(+ヨセフ)のいる宗教画となっています。

ダーフィットの時代の絵画の歴史についてはコチラの記事もご覧ください



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