動画de西洋美術史入門:第2回「古代エジプト美術」―ピラミッドが見下ろす、ナイル川のほとりに花開いた造形文化!


解説動画シリーズ「西洋美術史入門」、第2回の動画では、古代エジプトの美術を扱います。

  • 特に、王の理想的な姿を刻む石像、故人の生前をしのばせる墓の壁画、死者の書、ツタンカーメン王の黄金のマスク、ローマ統治下で描かれたミイラ肖像画について解説します。
  • 「西洋美術史入門」シリーズでは、それぞれの作品の表現や、造形的な特徴だけでなく、作品が果たした実践的な役割や、表現に期待されていた機能も解説し、深く作品を理解することを目指します。
  • ご覧いただけましたら幸いです。

古代エジプト美術史


  • 古代エジプトでは、先王朝期(紀元前4500-2900年頃)にも、造像活動👇が確認されます。
《女性像》
紀元前3500-3400年頃
テラコッタ(素焼き粘土)
29.2 x 14 x 5.7 cm
ブルックリン美術館
  • しかし、特に初期王朝時代(第1-2王朝期 紀元前2900-前2686年頃)から、造形作品を作る活動がさかんになりました。
  • 古王国時代(第3-6王朝 紀元前2686-前2181年頃)には、王(ファラオ)の支配権はエジプト全域に及ぶようになりました。
  • そして、増大したファラオの富と権力は、ピラミッドのような巨大石造建築物を作り上げることを可能にしました。

ピラミッドとエジプトの来世信仰

  • ピラミッドは、王を葬る墳墓としての機能を果たし、あるいは、魂が永遠にとどまる住まいでもありました。
  • 魂の住居を作る行為の背景には、霊魂は滅ぶことがないと信じる、エジプト人たちの来世に関わる信仰が存在しました。
  • このような信仰をもとに、古代のエジプトでは肉体をミイラと化して保存し、包帯で巻き、マスクをかぶせ、棺に納め、ピラミッドの内部に安置しました。

エジプト古王国時代の美術

初期のピラミッド:「階段式」(紀元前27世紀)

  • ピラミッドといえば四角錐👆をかたどる形状のものが有名です。
  • しかしながら、ピラミッド建造期の初め頃、古王国時代(紀元前2686年-2181年頃)の、第3王朝(紀元前2686年頃 - 前2613年頃)第2代ファラオのジェセル王階段式ピラミッドを建設しています。

「ギザの三大ピラミッド」(紀元前26世紀)

  • 続く、第4王朝期(紀元前2613年-前2494年)には、クフ王(紀元前26世紀)がナイル川の西の岸にあるギザに、角錐の形状を呈する大型サイズのピラミッドを建てました。
クフ王のピラミッド
  • クフ王が作らせたピラミッドは「ギザの三大ピラミッド」の中でも最大で、高さは146mにも達し、底辺は233mもの長さに及んでいます。
  • クフ王のために、このように巨大なピラミッドを作り上げるためには、延べ10万人もの労働者が動員され、その上で、およそ20年もの長い年月が費やされたと伝えられています。
ハインリッヒ・ロイトマン《ピラミッドの建造》1866年、彩色エングレーヴィング銅版画
  • ピラミッドは石を積んで、角錐の形をかたどっています。
  • このような形態は、幾何学的・抽象的形状を作ることへと向かう、古代エジプト人たちの造形的な指向性を感じさせると指摘されます。
  • あるいは、角錐の形状は、雲の間から地上へと向かって差し込む、太陽🌞の光線を形象化したものであるとも考えられています。
  • そして、クフ王に加え、さらにカフラー王(統治期間:紀元前2558年頃-前2532年頃)、それからメンカウラー王(在位:紀元前2532年頃-紀元前2504年頃)もピラミッドを築きました👇
カフラーおよびメンカウラー王のピラミッドとスフィンクス
  • 以上のクフ・カフラー・メンカウラーのピラミッド3点をまとめて、ギザの3大ピラミッドと称し、現在も多くの観光客がさかんに写真を撮影する、エジプト考古遺物中でも一番人気の被写体となっています👇

古代エジプトの彫刻

  • 墓や、その付属の神殿には、王や王族の肖像彫刻が安置されました。
  • これらの像は、ミイラ化した肉体が破損した場合に、魂を宿す役割を担っていました。
  • この役割を果たすために、像には、モデルの姿形に似ていることが求められました。
  • 結果として、古代エジプト美術においては、写実的な造形を有する肖像彫刻が発達しました。

作例:ラー・ヘテプとネフェルトの像

《ラー・ヘテプとネフェルトの像》
第4王朝、紀元前2600年頃、石灰岩に彩色、カイロ美術館
  • 古王国時代の王家に属した夫婦を揃ってモデルとして作られた石の像です。
  • このうち、夫のラー・ヘテプ王の息子で、現在のカイロ近郊に位置した古代都市ヘリオポリスの大司祭でした。
  • 男女はいずれも、顔を正面へと向けて、目は前方をしっかりと見据えています。
  • さらに、背筋をまっすぐに立てて、四角い形を呈する背もたれを備える椅子に座っています。
  • その体を見ると、身体の中心を通過する正中線に対して、体の各部のパーツは、ほとんど左右対称に配置されています。
  • このような造形については「厳正な印象をかもし出している」と評価されます。
  • これに対し、頭部には個性的な身体的特徴を示す顔を表しています。
  • 目には、水晶と黒石を象嵌することによって、迫真の描写を達成しています。
  • 以上のような、①厳正な幾何学的造形傾向と②写実主義的な造形感覚、すなわち③全体の統一感と④再現的な細部表現、⑤自然観察の結果の造形における積極的な反映が、古代エジプト彫刻の初期の作品の特徴となっています。

肖像彫刻の素材:複数の種類と彩色

硬質石材①花崗岩

  • エジプト最南端のアスワン付近で得られる石材
  • 《ネフェルト王妃座像》国立カイロ博物館
  • 《アメンエムハト3世立像》国立カイロ博物館
  • 《穀倉長ジェフティの像》ルクソール東岸出土、国立カイロ博物館

硬質石材②閃緑岩

  • マグマが地下深部でゆっくり冷えて固まってでき,安山岩よりきめが粗い
  • 《カフラー王座像》古王国、第4王朝、前2550年頃、カイロ、エジプト博物館

軟質石材①:石灰岩

  • 《ラー・ヘテプとネフェルトの像》第4王朝、紀元前2600年頃、石灰岩に彩色、カイロ美術館
  • 《書記座像》ルーヴル美術館

軟質石材②:アラバスター(雪花石膏)

  • 大理石よりも軟らかく加工が容易

木材

  • 《ナクト像》アシュート出土、エジプト中王国、第12王朝時代前期、前1960-前1916年頃、アカシア、石膏に着彩、目と乳頭は象嵌、MIHO MUSEUM

彩色:対象となる象の素材

  • 作品の自然さを増す処理
  • 石灰岩と木製の像に色を付ける傾向

絵画(壁画)と浮彫

  • 古王国時代以来制作
  • 墓室内壁画・墓碑・棺の装飾
  • 《「ティの墓」壁画》サッカーラ出土、古王国時代、第5王朝

壁画人物像描画時の規則

  • 規則①:頭と腰から下の半身➡側面から見た姿で表現
  • 規則②:肩と胸➡正面から見た様子で描写
  • 規則適用の理由:頭部は側面形(プロフィール)で造形する事により適切に表現することが可能;両肩と胸は正面から見た形が本質的なフォルムを示す;脚の形は側面から最も明瞭な認識ができる
  • 規則適用の結果:絵の中に表された人物は体をねじる姿に表現される⇦身体各部をそれぞれが本質的に見える角度から捉えて描写➡同描法は法則として後の表現に継承された

カノン:人体比例(プロポーション)

  • 足の裏から額の神の生え際までの各部の位置を決定
  • 下描きに方眼のメモリを使用

丸彫り彫像の制作方法

  1. 素材をブロック形に整える
  2. 方眼を参考に下描きを実施
  3. 下描きを基準に彫刻

カノン適用の有無を利用した身分表現

  • 一般に地位の高い人物の身体表現には、カノンを厳格に適用
  • 身分の低いものを描写する際には、カノンに縛られず人体のプロポーションを定める

第一中間期➡中王国時代

  • 彫像:個王国時代よりも、個人の身体的な特徴の再現的描写を追求する傾向
《供え物を運ぶ女性》
テーベ、メケトレの墓の副葬品
紀元前1981–前1975年頃 アメンエムハト1世治世初期
メトロポリタン美術館

エジプト新王国時代

  • 領土拡大➡エジプト王国繁栄
  • 各地で大規模造営事業を起こす
  • 神殿・葬祭殿に巨大なサイズの像を制作

方眼の使用

《グリッド入りのスケッチ:セネンムトの肖像》
紀元前1479-1458年頃
メトロポリタン美術館

  • かつらを被った役人を、石灰岩にスケッチした絵。
  • 縦横に走る格子は、定められた比率に従って人体各部を描くために重要。
  • 👁は正面から見た姿で、その他の顔のパーツ👃👄は横から見た姿で表す手法は、エジプト伝統の描き方です。

《ナクトの墓壁画》テーベ、新王国時代

  • 墓主と妻はカノンに従う人体各部の比率
  • 宴会場面中「奏楽の少女たち」は、比較的自由にプロポーションを決定

第18王朝期ファラオ・アメンヘテプ4世

  • アメンヘテプ4世(在位:前1364-前1347年頃)は宗教改革を企図
  • 首都をテル・エル・アマルナへと短期間移す
  • アマルナ美術➡伝統的な形式とは異なる自然主義的な造形が特徴
  • アメンヘテプ4世像(大英博物館)
《ネフェルティティの胸像》
アマルナ、紀元前1345年
石灰岩に化粧漆喰
ベルリン新博物館


【部分図:ネバムンの頭部と肩部】
  • 本作の主人公、穀物計量担当官のネバムン(ネブアメン)。
  • 右上の神聖文字の目と同様に、目と肩・胸は正面向き。
  • これに対し、顔は横向きで描かれています。
  • この描き方は、古代エジプトの伝統的手法です。



《アブ・シンベル神殿》
場所:エジプト-スーダン国境付近
時代:紀元前13世紀・新王国時代(第19王朝)
ファラオ・ラムセス2世が建造主となって作られました。
4体のラムセス2世像と、2体のネフェルタリ像が設置されています。

末期王朝時代

ファラオの権力が弱体化した時代
紀元前4世紀末、アレクサンドロス大王がエジプト征服
➡大王の部下プトレマイオス統治下に
➡エジプト文化、ヘレニズム文化に組み込まれる

プトレマイオス朝時代

➡ギリシャ文化にエジプト文化を融合
➡独特の肖像彫刻を制作
「緑の頭像」ベルリン美術館
➡古王国時代の超越感とヘレニズム美術の写実表現が混淆

エジプト美術の特徴

①幾何学的な秩序に向かう傾向
  • 抽象的な形態は永遠性につながる
  • 抽象化👉人体のプロポーションにカノンを適用
  • 特定の瞬間に示される人間の姿かたちを描く代わりに、安定した構築性を人体に付与する表現
②鋭い自然観察のまなざし
  • 壁画中の、中心的な人物像以外の人物
  • 工芸品の装飾的役割を担うモチーフ
古代エジプト美術の特質:永遠性と写実性が融合

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