動画de西洋美術史入門🍇第9回🏺古代ギリシャ美術③「クラシック美術 I:彫刻」―「コントラポスト」の人体表現と自然主義的なモチーフ描写が特徴の西洋美術「古典期」の立体作品

西洋美術史解説動画

動画シリーズ「西洋美術史入門」、第9回の動画👆では、
古代ギリシャ🏺の美術から、「クラシック期」の美術を取り上げました。

美術史学用語「クラシック」とは…

  • 「クラシック」(classic)は、ラテン語classis(ローマ人たちの区分、階級、軍隊)に語源を持ちます。
  • 英語でも「class」は「同じような人・物の集まり・階級」といった意味を有します。
  • 口語では「優秀、卓越」の意となります。形容詞化して「classic」となると「高尚な、古典の」といった意味を持つようになります。美術史学ではこの意味で「クラシック美術」などと称します。

時代区分「クラシック期」

    • 「クラシック期」は、「アルカイック期」に続く美術史の時代区分です。
    • この時期は、ペルシア戦争において、当時ギリシャにとって最強の敵国であったペルシアを撃退した(紀元前480年)頃から始まります。
    • 具体的には、アテネ女神に結び付けられた都市国家(ポリス)・アテネが最盛期を迎え、パルテノン神殿を建立した時代です。
    • そして「クラシック期」は、アレクサンドロス大王の東方遠征後の時代である「ヘレニズム期」の開始(紀元前330年頃)まで続きます。
    《パルテノン神殿》復元モデル(アメリカ、テネシー州ナッシュビル)
    • 実際にこのクラシック美術の時代に編み出された人体の造形は、ミケランジェロからロダンまで、のちの時代の芸術家の作品の姿に影響を及ぼしています。
    • 今回は、このクラシック期の像が特徴的に示す、①「アルカイック・スマイル」が消えた、厳しく、真面目な面持ち、片足には体重を乗せず、残る片足に重心を置く、左右非対称の肉体表現を特徴とする「コントラポスト」(contraposto)の姿勢と、②「豊麗様式」と呼ばれるスタイルの、豊かに刻まれる衣の襞の表現が特徴の浮彫、③さらに自然主義的なポーズをとる、表面を磨き上げられた神の像などについて解説します。

    クラシック期の代表作①:槍を担ぐ人

    ポリュクレイトス《槍を担ぐ人(ドリュフォロス)》
    原作:紀元前450-前440年 ナポリ国立考古博物館
    • ポンペイで出土した、高さが2メートルある堂々たる本像は、実は、ローマ期の大理石を素材としたコピー作品(「ローマン・コピー」Roman copy)です。
    • その原作は、いまでは失われたと考えられる、紀元前5世紀のブロンズ像でした。
    • 2022年に東京国立博物館で開催された特別展「ポンペイ」の展示会場にて撮影しました。
    • 筋骨隆々とした肉体の正面には、割れた腹筋と、分厚い胸板が誇示されています。
    • トロイア戦争における活躍で知られるアキレウスとも、やり投げの選手の像とも考えられている本作。
    • 神話の大英雄でも、競技会で活躍するアスリートでも、どちらでも通用するような、鍛えられた肉体が示されています。
    • 前代のアルカイック期の初期の抽象的な肉体表現からは大きく遠ざかる、自然主義的な筋肉の形状把握と、解剖学的な正確さを重んじる筋肉の配置が特徴となっています。
    • 右足を、像の体重のほとんどを支える機能を担う「支脚」とします。
    • そして、左足を、体重を掛けず、重心から解放する「遊脚」とします。
    • これが、クラシック期の像の造形帝特徴である、「コントラポスト」(Contraposto)と呼ばれる姿勢です。
    • 大理石の塊を彫刻して、立ち上がる姿の人物像を造る場合、安定性向上のため、像はひとりで自立させず、支柱を設けます。
    • 本像でも、右足の腿の後ろに、地面からL字の支えが伸びています。
    • このようなパーツは、鋳造により、中空に作ることができた、ブロンズの原作像(たとえば👇)には付属していなかったと考えられます。
    • クラシック期の像の頭部は、厳粛な面持ちを示す点で特徴的です。
    • 前の時代のアルカイック期には、像は笑みを浮かべていましたが、クラシック期には、男女いずれの像においても、その笑みは顔から失われます。

    クラシック期の代表作②:リアーチェのブロンズ像


    👆の画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス画像を改変して使用
    "Statue B of Riace bronzes" by AlexanderVanLoon is licensed under CC BY-SA 2.0.
    《リア―チェのブロンズ像:B》紀元前475-前470年
    レッジョ・カラブリア、マーニャ・グレーチャ国立博物館
    • この作品は、クラシック期のブロンズ像の原作が残った貴重な例です。
    • 本来は《槍を担ぐ人》も、本像と同様に、支えを要せずに自立していたのでしょう。
    • 《槍を担ぐ人》と同じく、この像も、右足に重心を置く「コントラポスト」と、まじめな顔つきが特徴の、クラシック期の像らしい造形を示しています。

    クラシック期の代表作③:サンダルの紐を解くニケ

    👆の画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス画像を改変して使用
    《サンダルを解くニケ》
    紀元前410年頃、アテネ・アクロポリス美術館
    • ギリシャ神話における勝利の女神・ニケが示す、丸みを帯びた豊満な体と、ドレーパリ―の表現が特徴的なこのレリーフの作品.
    • 当初は、アテネ・アクロポリスにそびえたっていた、アテネ・ニケ神殿を飾っていました。
    • 特に、神殿の軒下を装飾していた、フリーズ部分の、下方の欄干を飾っていたことが知られています。
    • 勝利の女神が、サンダル👡の紐を解いて履物を脱ぐために、右足を上げています。
    • そして、サンダルを足に固定している紐を右手で引っ張っています。
    • この動きに伴い、上半身は右足の方へと傾いています。
    • かくして、日常の生活の中で目にできるような、何気ない動作の一瞬がとらえられて描写されています。
    • 肉付き豊かな、体の上に、水の上に広がる、波文のように、薄い衣が、繊細にドレイパリーを広げ、刻む様子が表されます。
    • これにより、衣服の下の肉体の起伏や、量感を表現し、女神の体の存在を確かに感じさせます。

    クラシック期の代表作④:ヘルメス

    👆の画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス画像を改変して使用: "File:Hermes and the infant Dionysus by Praxiteles.jpg" by Dwaisman is licenced under CC BY-SA 4.0.
    プラクシテレス(?)《ヘルメス》原作:紀元前340年頃、
    ヘレニズム期のコピー(紀元前100年頃)オリュンピア考古博物館
    • 原作は、後期・クラシックの時代を代表する彫刻家・プラクシテレスの作品です。
    • 👆は、その、ヘレニズム期、紀元前100年頃のコピー作品になります。
    • 養育を託す、ニンフの元へと、まだ幼い、幼児期にある酒の神・ディオニュソスを連れていく、伝令の神のヘルメス。
    👆👇の画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス画像を改変して使用
    • 顔は、石を半透明に磨き上げた、スフマート技法による仕上げ。
    • 柔らかく、磨けば光るという大理石の素材の性質を生かす処理です。
    • ポリュクレイトスが規範化したコントラポストを発展させ、体中線を優しくS字形に湾曲させ、さりげない、一瞬の身のこなしを描写しています。
    • 従来の厳格な神々の像を、しなやかな青年の肉体で表現する点が特徴です。

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